宇都宮LRTが示す未来 ― 羽島市の交通まちづくりへのヒント
10月22日、栃木県宇都宮市を訪れ、「LRT(次世代型路面電車システム)」の整備・運営について視察を行いました。
説明いただいたのは、宇都宮市 建設部 LRT整備課・管理課、そして協働広報室の室長様をはじめとする担当職員の皆様です。
この度はお忙しい中、お時間頂戴しありがとうございました。

未来志向のまちづくり「ネットワーク型コンパクトシティ」
宇都宮市は、人口約51万人。清原工業団地を中心に「産業のまち」として発展してきました。
同市が掲げるのは「ネットワーク型コンパクトシティ(NCC)」という構想。
都市機能・産業・観光の拠点を公共交通でつなぎ、子どもから高齢者まで安全・快適に移動できるまちを目指しています。
その中核となるのが、2023年8月に開業した「芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)」です。
家庭ごみ焼却や太陽光発電など、地域由来の再生可能エネルギー100%で走る脱炭素交通として注目を集めています。
渋滞解消から都市価値向上へ ― LRT導入の成果
LRTは全長14.6km、17編成が運行。
朝夕の通勤・通学時は6分間隔で運行し、平日は約1.5万人が利用しています。
鬼怒川以東の工業団地エリアで発生していた通勤渋滞を緩和する目的で計画されましたが、今では地価上昇・転入増加など都市全体の価値向上に寄与しています。
とりわけ印象的だったのは、沿線企業が自社バスを廃止し、社員にLRT通勤を促す取り組み。
その結果、1日あたり4,000~5,000人が通勤で利用するようになりました。
また、LRT導入により車を持たない世帯の転入が増え、ウォーカブルな暮らしが広がっています。
市民の理解を得るまで ― 「反対」から「共創」へ
事業費は約684億円。宇都宮市と芳賀町が軌道や車両などを整備・保有し、運行は「宇都宮ライトレール株式会社」が担う公設型上下分離方式を採用しています。
当初は地元バス会社の反対もあったとのことですが、経営陣交代を機に理解が進み、最終的には出資・運営に加わるまでに。
この転換がLRT実現の大きな要因となりました。
さらに、市民との対話を重ねる「協働広報室」の存在が、市民理解と機運の醸成に大きく貢献していたのではと感じます。

羽島市に生かすべき視点 ― 「魚の骨ネットワーク」構想
宇都宮市が描く交通ビジョンには、「魚の骨ネットワーク」という考え方があります。
幹線となるLRTを「骨」とし、そこから地域交通が枝のように広がる構造です。
羽島市においても、名鉄竹鼻線やコミュニティバスといった既存交通をどう再編し、LRT導入時に有機的に結びつけるかが課題となります。
交通空白地域を解消するためには、幹線(LRT)と毛細交通(地域交通)の連携設計が不可欠です。
羽島市への提言 ― 未来に向けた準備を今から
岐阜県が中心となって進めるLRT構想の中で、羽島市がどのように存在感を示すか。
今回の視察で明らかになったのは、「利用者数を増やす鍵は、地域の産業誘致にある」という点でした。
工場や企業の集積は通勤人口を生み出し、公共交通の採算性を高めます。
したがって、羽島市としてもLRTと一体的に進める企業誘致戦略が求められます。
そして何より、行政だけでなく議会・市民が一丸となってLRTの必要性を理解し、機運を高めることが第一歩です。
LRT導入は単なる交通インフラではなく、新たなまちの未来像を描くプロジェクト。
このチャンスを逃さず、羽島市らしい持続可能な都市モデルの実現に向け、今から準備を進めていくべきだと感じました。

参考
宇都宮市・芳賀町の「芳賀・宇都宮LRT(ライトライン)」は、2023年8月に開業。
全国初の完全新設LRTとして注目され、開業から約2年で利用者・地価・転入人口すべてが増加傾向にあります。
LRT=Light Rail Transit は、快適性・定時性・環境性能を兼ね備えた次世代型交通システムとして、全国の自治体から視察が相次いでいるそうです。
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